心について
診断にうまく対処するには
MS(多発性硬化症)-患者さんとご家族の反応

MS患者さんが精神的な障害を発現する場合、身体の障害と精神面および社会面の問題が相互に関係しています。一般的に、身体の障害は検査や問診などで容易に診断することができます。疾患の経過は患者さん個々によって様々です。

しかし精神面および社会面の問題の変化や経過などは、評価しにくいものです。なぜなら主治医の診察の間に、このような問題が話に出ることはまれであるからです。
その結果、患者さんとご家族が完全に理解されることは難しくなります。
患者さんとご家族での診断に対する反応は、疾患の発症、年齢、性別、社会的環境によって異なります。また特に仕事の環境によっても異なります。

1.診断について話す

MS(多発性硬化症)について正確にご家族に伝えることは困難です。そのため患者さんとご家族との間に理解の不一致があるときには、危機感を与えます。患者さんとご家族は次のような反応を示すことがあります。

  • 恐怖、特に生活と死に対する恐怖
  • 落胆と絶望
  • 怒り
  • 悲嘆と憂鬱

危機は一般的に次のようなパターンで進みます。

  • 急性期、ショックの状態
  • 4~6週間後、反応
  • 対応
最良の例では自分について見つめなおし新しい位置付けが起こります。また良くない例では患者さんが挫折感を抱いたり固着したりし、神経症となることすらあります。

間違いや誤解のほとんどは、患者さんがショックの状態のときに起こります。患者さんとご家族がとくに表面的に何の反応も示さない場合、医療従事者や周囲の人々に誤解されることがあります。この時期にないがしろにされると、上記のような反応が激しく起こる可能性があります。

この時期に適切な配慮が受けれない場合、問題が慢性的になる危険があります。たとえば患者さんが次のような異常を示すことがあります。
  • 抑うつ障害
  • 恐怖障害
  • 人格変化
  • たとえば下記のような、社会的状態の変化

社会的引きこもり(孤独、孤立)

家族関係の変化

失業

廃疾

2.「家族の関係」について
家族の存在は、ご家族の個々の個性を併せてもそれ以上に大きいものです。「家族」は社会構成の基本単位と考えられています。
「家族」の中では誰もが何かしらの責任と役割を引き受けなければなりません。そのなかでも特に、帰属の経験や主体性を育てることが大切です。「家族」とは、このようないろいろな経験する場所です。

ご家族の一員が病気になることは、家族の関係にプラスにもマイナスにも影響します。プラスの意味では、ご家族は新たに順応し、経過の中で成長していきます。マイナスの意味では、次のような問題が起こります。
  • 両極化の傾向(受け入れることができないまたは過剰な援助の提供)
  • 連帯感の欠如(限定的な連帯感)
  • 役割の逆転
  • 固定された関係パターンに変化する
  • 病気への疑いと存在に関する恐れ
3. ケアの手段と治療の手段
  • MS患者さんと関わる周囲の人々は、誠実さや思いやりのある理解が必要です。もっともよい関係を築くことができます。これにはMS患者さんと関わる周囲の人々(ご家族や医療従事者など)が、同じ目標に向けて成功させるために努力しなければなりません。
  • 疾患に対する正確な情報が、必ず必要となります。これで否認するような反応を回避することができます。結果的に、症状が慢性的になることを防ぐことができます。
  • 「病気は不運を意味する」「健康は幸運を意味する」などと決めつけることはやめましょう。「どちらも」の原則的なこととしてとらえます。
  • 病気のために時間的な余裕がないといった考え方をやめましょう。できる限り自由な時間を作るように心がけます。
  • 常に希望を持ち続けていることは疾患の経過に対して、プラスの影響を及ぼすことができます。自分自身を良い方向に見直し、新しい方向付けを生み出すこともできます。将来に備えた基盤を作るために、現在から前向きに対応するようにします。
4. 46歳 Aさんの事例

46歳のAさん*は人生の中でとても大切な時期にMSにかかりました。子供時代や若い頃は幸福に過ごし、円満な家庭環境の中で成長しました。ご家族のモットーは活動的なスポーツをすること、健康に気をつけること、ご家族のきづなを大切にすることでした。
数年前に母親が病気にかかったため、Aさんが家庭内での母親の役目をこなしていました。またAさんは会社では専門職としての教育を受け、キャリアを積んでいました。

Aさんは25年前に結婚して幸福に過ごしています。夫婦の間には2人の子供-21歳の息子と20才の娘がいます。勤勉に身を粉にして働いたため、ご家族はある程度裕福に過ごしていました。Aさんはとても活発で明るくご家族の中心でした。そして子供と夫に強い愛情を持っています。

子供たちは独立する時期にさしかかっていました。Aさんは夫とは対照的にこの状況に特に苦労していました。夫は以前と変わらず忙しく働き続け、子供との結びつきはAさんほど強くありませんでした。この特に不安定な時期に、AさんはMSの診断を受けました。MSと診断されたことはいろいろな意味でAさんに強い衝撃を与えました。恐怖(存在に関する恐怖、将来介護が必要になるのではないかという恐怖、肢体不自由となる恐怖、車椅子で生活するのではないかという恐怖、健康や自由を失うことへの恐怖)、憂鬱、絶望、怒りなどの感情を経験しました。今や人生に意味があるのか、なぜこの不幸が自分を襲ったのかと自問しました。

また一方でAさんは現状を否認し、MSの診断に対する疑いを持ちました。ご家族も同様にAさんと同じような恐怖感を持ちました。ご家族はなぜ健康な妻・母が突然そのような病気になったのか理解できませんでした。やはり子供たちは母親を一人にすることができないと思いました。

しかしAさんは短時間の精神療法を受け、自分の病気を受け入れることができました。子供やご主人と改めて現状について話し合いました。ご家族は母親や妻との慣れ親しんだ関係を失うのではないかという不安を表に出すことができました。現在の状態に注意を向けることで、改めて順応することができました。母親が病気であっても、ともに楽しく暮らすことは今もできると気づきました。

Aさんは病気を受け入れてから、気持ちが楽になる療法を始めました。様々な医療専門職(神経内科医、精神科医)がとった迅速な対応により、不安は長引かず、家族の関係悪化を避けることができました。

*データ保護の理由のため、Aさんの個人データは変更・削減されています。